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右目から見える世界
今月もブログを書かなくちゃ。
僕は右目を失明しています。
これまで大事な人にしか言ってこなかったこと。
別に隠したいことじゃないんだけど、特に話す機会もないし、重い(と捉えられるかもしれない)話を軽くする術も持っていないので。
ブログなら一方向に発信できるので楽ちんですね。気になった人は呼んでいただけたら幸いです。
中学ではサッカー部に所属していた。
サッカー部と言っても、3年間公式戦で勝った記憶がないくらいのサッカー部。
「ドアホドアホ」と怒られながらも、みんなで楽しくやっていた。
失明したのは中学2年、3月下旬の土曜日。
大雨のずぶぬれ午前練を乗り越えた、翌日のオフだった気がする。
サッカー部の後輩の家で3人くらいでゲームしてて遊んでたところ、急に体調が悪くなった。
病み上がりあるあるの気分の悪さに加え、視界が曇り意識が遠のく感覚がした。
ここで「体調悪い」なんて言い出すとみんなに心配かけちゃうし、みんなのスマブラを邪魔してしまう。
用事あるから帰るわ〜
と言い残し、荷物をまとめ玄関に向かった。
視界が揺れ、ぼやぼやしながらも玄関にたどり着き、気づいたときには天井が見えていた。
鈍った感覚でも分かるくらいに後頭部が痛かったので、背中から倒れたのであろうと状況を判断した。
早く帰らなきゃ
と玄関のドアノブを握ると、次は体を揺さぶられる感覚がした。
どうやら、友人宅の玄関を半開きにする形で、うつ伏せに倒れていたらしい。
顔に手を当てると、右こめかみから血が出ており、慌てて起き上がった。
洗面台を借りて顔を洗い、心配してくれる後輩に「大丈夫大丈夫」と良いながら後輩宅を後にした。
そのときはというものの、かなり体調は回復していた。
後から知ったが、1時間くらい意識を失っていたようなので、当然である。
しかし、どこかがおかしい。
世界がぼんやりするというか、いびつな見え方がするというか。
試しに手のひらで左目を隠したとき、気づいてしまった。
右目が見えなくなっていた。
全く光が入ってこないわけではないが、視野の中心にある大きな黒い雲が邪魔をしていて、ほぼ何も見えない。
病み上がりでフワフワしていたので、
現実ならヤバいけど、これ現実だよな。
としか思えなかった。
歩いて家に帰り、家族に相談した。
1日寝れば治るんちゃう?
と相手にしてくれなかった。
これは僕が小さな頃からずっと泣き虫で、些細なことでギャン泣きしていたからだと思う。
道徳的アニメにありがちな自業自得パターンだ。
かくいう僕も一晩寝れば大丈夫だと思っていた。
だって治らなければ大丈夫じゃないから。
朝起きても右目が見えない。
親に相談して病院にいくことになった。
このあたりの記憶は曖昧でよく覚えていないが、最終的に神戸大学附属病院にたどり着いた。
日曜日ということもあり、町内の大きい病院に、市内の大きい病院に、県内の大きい病院にとたらい回しにされた記憶はある。
神戸大学の病院で検査をたくさん受け、診断されたのは「外傷性視神経症」。
簡単に言えば、こめかみの内部に詰まっている視神経が、強い衝撃によりダメージを受けてしまい、損傷しているらしい。
外傷性視神経症とは、広義では、頭部外傷や顔面の多発外傷により視神経が直接損傷されることを指します。
頭を打った衝撃が、眼球から脳への視覚情報を伝える視神経に損傷を与え、視力低下を起こします。(中略)
症状としては軽症のこともありますが、失明に至るほど大きく視力が低下することもあります。
そして言い渡されたのは
確実に有効とされる治療法はない
試してみる価値のある唯一の治療法は、早期からのステロイド投薬
ということ。
僕はまだ心ここにあらずの状態だったので、ショックだとは思わなかったが、親がかなり心配していたのは覚えている。
この時点で、損傷から24時間以上経っていたものの、ダメ元でステロイドを投薬することになり、神戸大学附属病院に緊急入院することになった。
そんなことより、入院中の僕をワクワクさせてくれたのは「iPhone5s」。
家から神戸大学附属病院まで、高速道路を使っても3時間ほどかかる。
寝たきり状態である僕の連絡手段として、姉がiPhoneを契約してきてくれた。
早速、これまでPCのBlueStacksで強引にアカウント作成したLINEにログインし、学校のヤンキーがiPod touchで教室のカーテンにくるまってコソコソやっているという「パズドラ」をインストールした。
完璧主義でマキシマイザーな僕は、2日間くらいリセマラをした。
当時人気だった「大喬小喬」を引き当て、めちゃくちゃガッツポーズした。
のちに、大学で4年間、Pentatonixのコピーバンドをやることになるのだが、Pentatonixと出会ったのは、この病室だった。
中1の頃からYouTubeにどっぷりハマり、国内では、
- はじめしゃちょー
- MEGWIN
- HIKAKIN
- 瀬戸弘司
海外では、
- Smosh
- TVfilthyfrank
- Ryan Higa
あたりを観ていた。
これらのクリエイターが出演していたのが、YouTube公式の1年を振り返る「YouTube Rewind2013」であり、そこで使われていた曲がこの2曲。
Can't Hold Us / Macklemore & Ryan Lewis
Get Lucky / Daft Punk
そして関連動画で、これらをカバーしていたPentatonixに出会うことになる。
そこからは、穴が空くほど「PTX vol.1」と「PTX vol.2」のアルバムを聞いた。
今でも「We Are Young」「Valentine」を聞くと、当時のことをぼやっと思い出す。
音楽と記憶ってこんなにもリンクするんだなあと感心する。
閑話休題、入院してからというもののやることもなく、お見舞いに来てもらえるような距離でもないため、1人でパズドラに勤しむしかなかった。
腐っても目の怪我で入院してるのに、パズドラばっかりしてたので、看護婦さんに怒られたりもした。
入院から1週間ほどで新学期が始まってしまう。
ステロイド投薬は顕著な回復がみられず、医師からは、
1ヶ月ほど様子を見ればなにか変わるかもしれない
といった曖昧な診断しかされない。前例が少なくなんとも言えないらしいのだ。
みんなと違うことが恥ずかしい思春期の男の子だった僕は、春休み内で入院を終わらせることを優先し、早期退院した。
2016年には、視神経に損傷がないケースではあるものの、1ヶ月程度投薬を続けた人が光角消失から回復した事例があったらしい。
現在は、神戸大学の惑星学専攻に入学し、Pentatonixキッカケで始めたアカペラもできている。
なんだかんだ、未来と過去はいい感じにつながるし、つなげるのは当の自分なんだなあと思っている。
でもパズドラはやめた。全然やめたな。
好きなものの移り変わりっていうのも儚い。
10年近くたった今も黒い雲とは共生している。
見え方としては、下図の中期〜末期の視野に近い。
右目の視力がなくなって困ったことはいくつかある。
- 視力検査ができない
ぼやけて見えないとかではなく、黒い雲が邪魔しているので、視野の中心にあるものが物理的に見えない。
JINSのお姉さんに微妙な顔をしながら説明して、微妙な顔をしていただくのがおなじみになってきている。
- 視力が下がる
中学まではずっと視力2.0だったのだが、高校生の頃から視力が下がり始め、今はメガネがないと厳しくなってきた。
これは他の要因も考えられるのでなんとも言えない部分だが、将来的な視力の低下や斜視の悪化は怖い。
- 球技が苦手になった
遠近感がないので、球技全般が苦手になった。
高校では、遠近感が必要ない陸上部に転向した。
- 疲れやすい
視覚的な情報を左目だけで処理しているので、疲れやすいとのこと。
14歳で片目生活になり、それからは片目の生活しか知らないので、失明のせいで疲れやすくなっているのかは分からないし、もう分かりようがないので気にしていない。
- 顕微鏡、双眼鏡が使えない
高校の生物の授業や、大学の鉱物学の授業で顕微鏡を使ったときはかなり苦痛だった。
わざわざ見えないことを説明するのも嫌だったので、適当なデッサンでその場をしのいだ。
- 右側の視野が狭い
右側の視野が40°狭くなっている。
右側にいる人と話すときは気づかないうちに首が疲れるし、結構ぶつかるし右側にいる綺麗なお姉さんをチラ見するのが難しい。
- 選択肢が狭まる
矯正視力は1.0近くあるので、普通車免許は取れる。
ただ、大型や二種の免許取れなかったり、職によっては応募資格がなかったりする。
- 覗き見ができない
物陰からコソッと覗き見しようとしたとき「あっ!こっちの目見えないじゃん!」と驚くことがある。
逆にいえば、驚いてしまうくらい普段の生活で意識していない。
- 右目が小さくなっている気がする
右目を使わない生活をしているせいか、右目のまぶたが重くなってきている気がする。
まあでも、視神経の病気なおかげで、義眼をつけなくて済んでるだけありがたい。
- VRができない
物理的にVRやARが楽しめない。
どれだけ普及するのか身近なものになるのか分からないが、テクノロジーにおいてかれることに不安を感じる。
- 障害者認定されない
片目の視力が0でも、もう片方の矯正視力が0.6を上回っていれば障害者と認められないのが現状。
僕は幸い見た目に影響がなく、生活にこれといった支障が少ないが、義眼が必要な方は生きづらさと闘ってるはず。
逆に右目が見えなくなって、良かったこともなくはない。
- コンタクトが半額
これがデカすぎる。
単純に半額になるし、片目だけ入れればいいから楽。
- 単眼立体視
片目といえども、知識や色合いで左右視差以外の方法で奥行きはある程度補完できているらしい。
両目が普通に見える人より、そのへんの補完能力が優れていくってことなので、どこかで強みになると良いな。
こんな感じで、自分のディスアドバンテージを語ってきたが、自分自身は重く受け止めることもなく、1つのアイデンティティだと思っている。
極論を言うと、
小さな頃から宇宙飛行士になりたかったものの、片目を失明してしまい応募条件すら満たさなくなり、絶望してしまったが、研究者を目指し神戸大学の惑星学専攻にいる
という「こじつけ逆境サクセスストーリー」の1ネタとして、自己消化してたりもする。
(別に宇宙とか宇宙兄弟がめちゃくちゃ好きだったのは事実だけど、宇宙飛行士は現実的じゃないと分かっていたのも事実だし、研究全然できてないところあるのは秘密。)
僕がこんなに楽観的にいれるのは、なんといっても目が2個あったから。
逆に言えば、両目失明にリーチをかけているわけでもあるけれど。
厳密には障がい者ではないけど、ひとつのディスアドバンテージを負うものとして、車椅子に乗っている方や、白杖を使っている方には、1番に手を差し伸べれる人間でありたいなと思っています。
みなさんが健康でありますように。